重点研究プロジェクトに関連したラマン分光法の研究に進展がありました

公開日 2016年02月14日

 本学では,生物資源科学部の山本達之教授をリーダーにして,重点研究プロジェクト「島根大学のシーズを活かした学際的新規医療技術開発拠点の確立」を立ち上げ,ラマン分光法の医療応用に関する研究を推進しています。ラマン分光法は,前処理が不要で,生きた細胞や組織に損傷を与えることなく,分子に関する情報を得ることができます。ラマン分光法の,こうした特長を活かして,生検(切り取り検査)不要の新しい医療診断技術への応用が期待されています。  
 こうした流れの中,重点研究プロジェクトに関連した学術的に重要な研究成果が,ヘマンス助教(医・生物ラマンプロジェクトセンター)らによって見いだされ,Nature Publishing Groupのオープンアクセス誌Scientific Reportsに掲載されました。
  http://www.nature.com/articles/srep27789  
 本研究で用いられている分裂酵母は,栄養豊富な環境では2~3時間おきに分裂を繰り返して増える真核生物です。分裂酵母は,ヒトのモデル生物として広く研究に用いられていますが,飢餓状態になると,胞子を形成して休眠します。その際に,形成される胞子表面の糖は,通常の細胞膜と異なるとされてきましたが,その詳細は分かっていませんでした。ヘマンス助教らは,マルチバリエイト法と呼ばれる解析手法をラマンスペクトル解析に活用して,特定の糖が胞子表面に含まれていないことを明らかにしました。この研究手法は,重点研究で開発を目指している「ラマン分光法を用いた好酸球性食道炎の非生検的診断技術開発」にも活かされていて,複数の関連特許を申請中です。今後,島根大学発の新規技術が,地域医療に活かされていくものと期待を集めています。
 本学では,こうした先進的研究を,より身近に感じていただくために,来る10月22日(土)に「島根大学 夢の先進研究大公開」と題した,公開シンポジウム(参加費無料)を「くにびきメッセ」で開催の予定です。


図1. 分裂酵母の生活環(飢餓状態になると胞子を形成する)


図2. 分裂酵母細胞内(上段:通常細胞,下段:胞子形成中)の糖の分布を
表すラマンマッピング
(左:光学写真,中:β−グルカン,右:α−グルカン)。
下段の光学写真の矢印は,各々,細胞膜(黒矢印)と胞子(白矢印)の位置
を表す。 α−グルカンは,細胞膜と胞子の両方に存在するが,β−グルカンは,
細胞膜中にしか存在しないことが分かる。