重点研究・S-ナノ_平成17年度の研究成果

1.酸化亜鉛超微粒子と薄膜

青色発光する酸化亜鉛ナノ粒子分散液

 酸化亜鉛は,安価な青色発光材料,透明導電膜材料として有望です。 本プロジェクトでは,極めて良好な発光特性を示し,しかも安価な酸化亜鉛超微粒子を作製する方法(ガス中蒸発法)を開発しました。そして酸化亜鉛超微粒子を溶媒に分散させ,紫外線・青色領域の発光を得ることに成功しました。 また,本学の特許を基にした「酸化亜鉛系薄膜成長用MOCVD装置の開発」が科学技術振興機構(JST)の「実用化のための育成研究」(H18-20年度に実施)に採択されました. これは,酸化亜鉛系単結晶薄膜を使ったLED,半導体レーザの量産に用いられ有機金属成長装置(MOCVD)を世界に先駆けて開発するものです。

   写真:青色発光する酸化亜鉛ナノ粒子分散液


2.酸化亜鉛透明導電膜の有機太陽電池への適用性を確認

 発光ダイオード,太陽電池,液晶などの電子デバイスの多くは透明導電膜を使用しています。 これまでITO (Indium Tin Oxide)が透明導電膜用材料として用いられてきましたが,Indium の枯渇により,ITOに取って代わる材料の開発が急務となっています。 代替材料として有望視されているのが酸化亜鉛です。本プロジェクトでは,ITOと同等の電気伝導性と透明度を持った酸化亜鉛薄膜を作製し,その薄膜が有機薄膜太陽電池の透明電極として利用可能なことを確認しました。


ガリウムを含有させた酸化亜鉛透明導電膜 (GZO)を用いた有機薄膜太陽電池。
ZnPcとPTCBI はそれぞれp型とn型の有機半導体です。
GZOの代わりにITOを用いた試料も作製し,両者を比較しました。


左図の2種類の有機薄膜太陽電池の光起電力特性,
つまり光電流密度のバイアス電圧依存性。GZOを用いた場合も
ITOの場合に迫る高い光起電力特性を示します。


3.新規チタン酸バリウムBaTi205の大量合成、セラミック化に成功

 チタン酸バリウムと言えば普通はBaTiO3という組成のものを指し,これは代表的な強誘電体として広く実用化されています。本プロジェクトでは一昨年までにBaTi2O5という組成の新規チタン酸バリウムの単結晶と粉末の作製に成功し,それが幅広い応用可能性を持つことを明らかにしました。 昨年度はBaTi2O5粉末の作製法を再検討し,30g単位での大量合成が可能となりました。また,BaTi2O5は1100゚C以上の高温で変質してしまうので,粉末のセラミックス化が難しかったのですが,バインダーと焼成温度を検討することで,セラミックス化に成功しました。


BaTi2O5セラミックスの誘電率と誘電正接の温度依存性。
誘電率のピークが450゚Cあたりにあるのがこの物質の特徴です。

4.プラスチックフィルム上のフレキシブルMgB2超伝導薄膜の形成に成功

フレキシブルMgB2超伝導薄膜

MgB2は安価な高温超電導体であるため,実用可能性の検討が世界中で進められています。本プロジェクトでは,MgB2の高性能薄膜の作製を目指した研究を進めてきました。 昨年度までにプラスチックフィルム上への高品質MgB2薄膜の形成に成功しました。 これをさらに高性能化すれば,手で曲げることのできる超伝導テープが実現され,超低抵抗な電線,シールド材など,広範囲な応用への道が開けます。

 写真:フレキシブルMgB2超伝導薄膜


5.高性能熱電変換材料のナノ領域での組織構造を解明

 熱電変換材料は温度差があれば発電します。逆に電気を流せば冷却,過熱を行うこともでき,広い用途があります。例えばワイン用冷蔵庫に使われているペルチェ素子は,まさにこの熱電変換材料によって作られています。 通常の冷蔵庫は冷却用ガスを使うため,環境破壊と常に背中合わせですが,ペルチェ素子だとそのような心配がありません。熱電変換効率を向上させれば,ペルチェ素子を使ったエアコンの実現も夢ではありません。本プロジェクトでは熱電変換材料の高効率化を目指した研究を進めています。効率向上には材料のナノ領域での組織制御が重要です。 昨年度までの研究で,通電加圧法によって作製したビスマス−テルル系熱電材料が高い効率を示すことを明らかにし,この材料のナノ領域での結晶方位分布,組織構造を明らかにしました。


ビスマス−テルル系熱電材料の結晶構造。熱電特性はa軸方向の温度勾配あるいは
電流に対して優れており,材料中で結晶をいかに配向させるかが,研究のポイントになります。

その他の活動

  • 島根県新事業支援産学官ネットワーク形成事業によるナノテク導入研究会の実施
    • 第1回 「ワイドギャップ半導体(酸化亜鉛,窒化ガリウム)の気相成長技術」H17年12月15日,於島根大学
    • 第2回 「ナノ組織化による高機能化とその評価」,H18年1月17日,於島根大学
    • 第3回 「ゼオライト:ナノテク最前線」,H18年2月8日,於島根大学
    • 第4回 「島根におけるナノテク研究の更なる発展に向けて」,(兼 S−ナノ年度末報告会) H18年3月10日,於島根大学
  • シンポジウム「ワイドギャップ半導体のエネルギー変換デバイスへの応用」を企画 H17年7月30日,於島根大学
  • 中国技術振興センター産官学連携シーズ育成事業「新規チタン酸バリウム薄膜研究会」を4回開催
  • 地元企業との「研究交流会」を開催,H17年7月13日,於島根大学
  • 島根鉱業振興協会総会において本プロジェクトを紹介する講演,H17年8月30日,西出雲
  • 日本学術会議中国・四国地区会議公開学術講演会で本プロジェクトに関する講演 H17年9月2日,於くにびきメッセ
  • 総合科学研究支援センター講演会「おもしろい科学のはなし」で本プロジェクトに関する講演 H17年10月22日,於島根大学
  • 中海ものづくりフェア2005にポスター展示,H17年11月5日,於くにびきメッセ

(テキサスプロジェクト関係)

  • Shimane-Texas Joint Symposium on Nanotechnology の開催,H17年11月28日,於島根大学
  • 島根大学テキサスプロジェクトの一環として,S−ナノメンバー5名がテキサスを訪問, H18年1月末
  • 島根県のテキサス訪問団にS−ナノメンバー2名が参加,H18年2月中旬
  • テキサス州の大学との間で共同研究を開始(計4テーマ)
  • テキサス州の企業との間で研究交流を開始