S-匠ナノメディシンプロジェクト

概要

 高齢化が進む地域では高度先進医療技術による医療費の増加が問題となっています。
 島根大学では「低コスト」「簡易」「実用性」を兼ね備えたナノ材料技術を世界に先駆けて開発してきました。これらの技術をもとに、本プロジェクトでは、「安心」「安全」で高機能な地域に貢献できる独自のナノ医療技術を開発します。プロジェクト名の「S」は島根大学、安全(Safe)、簡易(Simple)、経費と時間の節約(Save)を意味します。これらの技術は材料作製から臨床応用までが小規模な施設で完結でき、町工場の職人“匠”に通じる総合的な技術伝承が可能です。本プロジェクトでは医・理工農連携による新しい教育研究分野の人材育成も目指しています。
    

以下の5つのサブグループに分けて研究を進めています。

 

  • 酸化亜鉛:酸化亜鉛ナノ粒子による蛍光標識を用いたがんなどの非侵襲的早期診断技術を開発します。
  • ナタデココ:ナタデココをバッファに用いたマイクロ流路電気泳動による創傷の診断、抗菌剤含有ナタデココによる治療技術、ナタデココを用いたスキンケア技術を開発します。
  • ハイドロジェル:温度や磁気などの条件を非侵襲的に対外から操作して薬剤などを目的の部位で放出できる特徴を利用して、安全性の高い薬物送達システムを創生し、がんなどに対する新たな診断治療戦略を開発します。
  • 新規ナノ材料:超音波診断やアルツハイマー病などの早期診断技術への適用を目指した圧電性や光触媒性をもつ新規ナノ材料や近赤外蛍光物質を開発します。
  • 安全性評価:本研究プロジェクトで用いるナノ材料の安全性を評価します。

 

研究内容

 ここで扱うのはベビーパウダーの原料である酸化亜鉛やデザートで食べられるナタデココ、ハイドロジェル(ゼリー)などの身近で安全な材料です。これらは,ナノ構造を持ち,高度な微細加工技術を用いずに小規模な実験室で簡易な装置を用いて安価に作製できることが特徴です。島根大学の重点研究の成果である酸化亜鉛ナノ粒子は従来の有機蛍光色素に比べ安定で高輝度な発光が可能であり,ナノ医療で注目を集める半導体量子ドットのような毒性材料ではないため実用的な蛍光標識剤となりえます。立教大学と応用技術開発を行っているナタデココはバクテリアがつくるナノ繊維であり,超高速診断が可能なマイクロ流路電気泳動の実用化や薬剤保持,再生医療の材料等に利用できます。University of North Texasと共同研究を進めるハイドロジェルは目的の部位への薬物送達に有用です。これらを用いることにより,がんの早期診断やピンポイントでの治療などの画期的な医療技術を開発できる可能性があります。本プロジェクトでは図に示した5つのグループで研究開発を行い,安全,安価で高機能な島根大学発の蛍光標識剤と薬物送達システムの開発及び診断・治療の基礎技術開発を行い、地域課題の解決に向けた国際水準の新しい臨床応用開発とナノ医療分野の人材育成へ展開しています。

研究成果の活用

 本研究プロジェクトでは,島根大学の特徴となる新しい教育研究分野の形成を目指しており,その研究成果は地域医療やアジアの医療に役立つがんの早期診断・治療等の新しい臨床応用開発へ展開します。更に,平成20年度からスタートした大学院医理工農連携プログラムや国際交流を通して人材育成にも貢献する本学の特徴となる新しい教育研究拠点の形成を目指します。また,地域産業クラスターへの取り組みとして,研究成果が食品応用へも展開しています。


研究者紹介(H22年度)

プロジェクトリーダー 藤田 恭久 (総合理工学部・教授)

○酸化亜鉛グループ
  藤田 恭久(総合理工学部・教授)            O.Senthilkumar (プロジェクト研究推進機構・研究員)
  中村 守彦(産学連携センター・教授)          平川  正人(総合理工学部・教授)
  磯部 威 (医学部・教授)                  宇田川 潤(医学部・准教授)
  廣光 一郎(総合理工学部・教授)             田中 仙君(総合理工学部・助教)
 
○ナタデココグループ
  竹下 治男(医学部・教授)                中井 毅尚(総合理工学部・准教授)
   関根 浄治(医学部・教授)                森 隆治(プロジェクト研究推進機構・准教授)
 
○ハイドロジェルグループ
   福田 誠司(医学部・准教授)              佐藤 守之(総合理工学部・教授)
   竹永 啓三(医学部・准教授)               原田 守(医学部・教授)
   浦野 健(医学部・教授)
 
○新規材料開発グループ
  秋重 幸邦(教育学部・教授)               戴 中華(プロジェクト研究推進機構・研究員)
   内田 伸恵(医学部・教授)                 半田 真(総合理工学部・教授)
   長井 篤(医学部・准教授)
 
○安全評価グループ
  秋吉 英雄(生物資源科学部・准教授)         山本 達之(生物資源科学部・教授)
   頓宮 美樹(総合科学研究支援センター・助教)

 

連絡先

  藤田 恭久   TEL  0852-32-6257   E-mail  fujita@ecs.shimane-u.ac.jp 
  *迷惑メール防止のため、@を全角で表記しています。