島根大学のシーズを活かした学際的新規医療技術開発拠点の確立

概要

 本研究プロジェクトは,臨床診断へのラマン分光法の基礎研究と応用研究を柱とする 3つのサブグループで構成し、従来よりも直進性が高く深部の臓器の超音波診断への応用技術の開発,酸化亜鉛ナノ粒子やフタロシアニンなどのナノマテリアルのがん治療への応用を目指した研究を行います。

レーザー光源

raman.jpg
→  ラマン分散光  ←→  ラマン分散光  ←
図  四塩化炭素のラマン散乱光

研究内容

 ラマン分光法は,試料の前処理が不要で,非侵襲的な測定が可能な分光法であり,工学分野では一般的に用いられてきました。しかし,医生物分野では評価手法の一つとして用いられるものの本格的な研究は少なく,がん組織の簡便な診断など目指して国内外で応用研究が取り組まれていますが、当初の予想ほど研究は進んでいないのが現状です。 このような状況の中,本学では,ラマン分光法による生細胞の代謝評価などの基礎的研究と,好酸球性食道炎の簡便な診断などの応用研究の両方が,第3期重点研究プロジェクト「S−グリーンライフナノ材料プロジェクト」を中心に確実に進められてきました。これらの研究では,ラマンスペクトルに現れる,特徴的な「マーカーバンド」に注目して,組織や細胞の状態を評価するという手法を採っているために,他の研究者らと比較しても,クリアな結果が出ています。
 こうした研究活動が評価され,文科省の教育研究力強化基盤整備費により,最先端のラマン分光の装置が島根大学に導入されました。 本プロジェクトでは、本学ナノテクプロジェクトセンターにこれまでに集積されてきた,ナノテク関連機器とも組み合わせることで,ラマン分光の医療応用の研究を本格的に行う世界初の研究センターを開設し、特徴的な診断・治療技術と共に本学の学際的な教育研究の核の一つとして発展させることを最終目標とします。 また,これらの取組により医療の発展に貢献するとともに地域産業を支える差別化技術として本学のCOC事業にも貢献していくことを目指します。

  研究プロジェクトは,以下の3つのグループで構成します。

A.ラマン分光学の医生物応用:
 試料への前処理が不要で,生細胞や生きた組織をあるがまま測定可能なラマン分光法を医生物学に応用します。この研究は,本プロジェクトの中心であり,基礎研究部門と応用研究部門から構成されます。基礎研究部門では,チトクロームの酸化状態に注目したミトコンドリア機能のラマン分光法による評価,紫外線が網膜に与える影響のラマン分光法による評価,分裂酵母などの生細胞に与える種々の薬剤投与の効果のラマン分光法による評価などを行って,ラマン分光法を応用した新たな実験技術の開発・確立を目標とします。また,近赤外光や近接場効果のラマン分光法への活用を目指した基礎研究も行います。一方,応用研究では,好酸球性食道炎のラマン分光法による新規診断技術の開発,病理組織学的診断へのラマン分光法の応用(アミロイドーシスの診断、細胞種の判別など),呼気、尿、脊髄液を用いたラマン分光法による検査法開発などを進めます。特に,好酸球性食道炎の診断が可能なラマンプローブを開発して,臨床応用現場への活用を目指します。これらとは別に,ポータブルラマン装置を活用して,犯罪現場における血液判定の迅速化の試み,日本海産の魚介類の肉質検査などの応用研究も進めます。

B.新規超音波診断技術の開発:
 島根大学発の新規チタン酸バリウムを用いた画期的な新規超音波診断デバイスの開発を目指します。島根大学で開発された材料を使いノーステキサス大で試作されたメタマテリアル音響レンズは従来よりも直進性が高い超音波を発生させることができます。この特長を活用して,従来の装置では捉えることが不可能だった深部臓器への超音波エコー検査の活用を目指します。その他,新規蛍光プローブによる植物細胞のバイオイメージングを目指した新規診断技術に活用可能な研究を進めます。

C.ナノマテリアルの応用とメカニズム解明:
 米国NIHではフタロシアニンを用いた近赤外光による光線力学療法が,がん治療の実用化目前の成果を上げています。島根大学では既にフタロシアニンに近赤外による複数の治療効果を見出しており,応用上重要なメカニズムの解明を目指します。また、ナノマテリアルに関するこれまでの成果を更に発展させることを目標に、特徴的な触媒効果をもつ酸化亜鉛ナノ粒子のがん治療への応用やナタデココなどのソフトマテリアルの歯科治療への応用などの研究を進めます。

研究者紹介(H27年度)

プロジェクトリーダー 山本 達之(生物資源科学部・教授)

A1.基礎研究部門

長井  篤(医学部・教授) 大平 明弘(医学部 教授)
川向  誠(生物資源科学部・教授) 戒能 智宏(生物資源科学部・准教授)
児玉  有紀(生物資源科学部・准教授)  
ヘマンス ヌータラ パティ(医・生物ラマンプロジェクトセンター・助教)

A2.応用研究部門

木下 芳一(医学部・教授)  大嶋 直樹(医学部・助教)
丸山 理留敬(医学部・教授) 竹下 治男(医学部・教授)
藤原 純子(医学部・助教)  

B. 新規超音波診断技術等の基礎的研究

塚田 真也(教育学部・講師)  鹿内 文仁(教育学部・特任准教授)
増田 浩次(総合理工学研究科・教授) 北村  心(総合理工学研究科・助教)

C. ナノマテリアルの応用とメカニズム解明

半田 真(総合理工学研究科・教授)  藤田 恭久(総合理工学研究科・教授)
池上 崇久(総合理工学研究科・准教授) 礒部 威(医学部・教授)
関根 浄治(医学部・教授) 福田 誠司(医学部・准教授)
片岡 祐介(総合理工学研究科・助教) 西村 浩二(総合科学研究支援センター・助教)

連絡先

 山本 達之   TEL  0852-32-6551 E-mail  tyamamot@life.shimane-u.ac.jp 
            *迷惑メール防止のため、@を全角で表記しています。